『坊っちゃん』が強烈なADHDの話だった件について

公開日: : 最終更新日:2016/01/19 書評

漱石

「親譲りの無鉄砲で子供の頃から損ばかりしてきた。」という、あまりにも有名な書き出しは知っていても、実は夏目漱石の『坊っちゃん』を読んだことがない、なんて人は思いの外多いのではないかと思います。僕も最近まで読んでいませんでした。

小学校や中学校で「推薦図書」として紹介されていたせいで、どうせクソ真面目なよいこちゃん向けのよいこ小説なんだろ?みたいな先入観からスルーしていたんですが、ところがどっこい、これがめちゃくちゃ面白かった。よいこちゃん小説だなんてとんでもない。どちらかと言えば「ファイト・クラブ」みたいな価値観の小説でした。

あえて乱暴に坊ちゃんを要約すると、

後先考えずに衝動的に行動する空気の読めないADHDの主人公が田舎で教師になるも、ネチネチした性格の教頭先生と反りが合わず、「ああいう手合いには口で戦っても敵わない。どうしても腕力でなくっちゃ駄目だ。なるほど、世界に戦争が絶えない訳だ」とかなんとか抜かし、上司をぶん殴って1か月で仕事を辞めるお話です。

こんな話が小・中学生の推薦図書になってるのは、まじで頭がおかしいとしか思えません。子供が真似したら大変ですよ。

海外では太宰の『人間失格』を児童への性的虐待を描いた小説であるとして評価する趣きがあるようですが、だったら漱石の坊っちゃんは間違いなくADHDの文学です。

坊っちゃんは間違いなくADHD

明らかにADHDな坊っちゃんですが、作中では坊っちゃんの障害は「無鉄砲」な性格であるとしか表現されていません。それもそのはずで、漱石の時代にはADHDなんて言葉はありませんでしたし、発達障害という概念も存在していませんでした。教頭先生は坊ちゃんのことを、「あいつは神経がいかれているに違いない」と評していますが、さすがはいっぱしの教育者。予想は見事的中しております。

現代では、一般にADHDは遺伝しやすい障害であることが知られています。
親がADHDだと、子供も高確率でADHDになるんです。つまり、坊っちゃんが言う「親譲りの無鉄砲」は、親のADHDを遺伝したのである可能性が高いという訳。

そんな坊っちゃんは、例えば冒頭からして文句なしのADHD気質を発揮してます。

親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰を抜かした事がある。なぜそんな無闇をしたと聞く人があるかも知れぬ。別段深い理由でもない。新築の二階から首を出していたら、同級生の一人が冗談に、いくら威張っても、そこから飛び降りる事は出来まい。弱虫やーい。と囃したからである。小使に負ぶさって帰って来た時、おやじが大きな眼をして二階ぐらいから飛び降りて腰を抜かす奴があるかと云ったから、この次は抜かさずに飛んで見せますと答えた。

僕自身ADHDなのですが、たぶんADHDにはこういうところがあるんですよ。
衝動性が強く、後先を考えないところがあります。

そして、節々でしつこいくらいに描写されるADHD的な描写。

おれの癖として、腹が立ったときに口をきくと、二言か三言で必ず行き塞ってしまう。

おれはよく親父から貴様はそそっかしくて駄目だ駄目だと云われたが、なるほど少々そそっかしいようだ。

おれは性急な性分だから、熱心になると徹夜でもして仕事をするが、その代り何によらず長持ちのした試しがない。

温泉に入れば、当然のように泳ぎはじめます。実に楽しそうな描写です。

湯壺は花崗石を畳み上げて、十五畳敷ぐらいの広さに仕切ってある。大抵は十三四人漬ってるがたまには誰も居ない事がある。深さは立って乳の辺まであるから、運動のために、湯の中を泳ぐのはなかなか愉快だ。おれは人の居ないのを見済しては十五畳の湯壺を泳ぎ巡って喜んでいた。ところがある日三階から威勢よく下りて今日も泳げるかなとざくろ口を覗いてみると、大きな札へ黒々と湯の中で泳ぐべからずとかいて貼りつけてある。湯の中で泳ぐものは、あまりあるまいから、この貼札はおれのために特別に新調したのかも知れない。おれはそれから泳ぐのは断念した。

また、坊っちゃんは、ただそそっかしくて衝動的なだけではありません。
考え方が異常に合理的なんです。

授業はひと通り済んだが、まだ帰れない、三時までぽつ然として待ってなくてはならん。三時になると、受持級の生徒が自分の教室を掃除して報知にくるから検分をするんだそうだ。それから、出席簿を一応調べてようやくお暇が出る。いくら月給で買われた身体だって、あいた時間まで学校へ縛しばりつけて机と睨にらめっくらをさせるなんて法があるものか。

最近では、中高の教師に残業代が支払われなかったり、休日まで部活動の顧問をやらされているのはどうなの?みたいな議論がありますが、100年前から似たようなことを言っていた坊っちゃんは流石ですね。

もちろん、坊っちゃんは一度ついた職業に固執するようなこともありません。

おれが邪魔じゃまになるなら、実はこれこれだ、邪魔だから辞職してくれと云や、よさそうなもんだ。物は相談ずくでどうでもなる。むこうの云い条がもっともなら、明日にでも辞職してやる。ここばかり米が出来る訳でもあるまい。どこの果はてへ行ったって、のたれ死じにはしないつもりだ。

かっこいいですねえ。

本当はみんな、坊っちゃんみたいに生きたいんじゃないですか?

気に入らない上司ならぶん殴って辞めちまえばいいんだよ。なあに、仕事なんか辞めたって死ぬことはないさ。という痛烈なメッセージは、疲れた社会人の心に染みること間違いなしです。従うのは目先の損得ではなく自分の正義。後先を考えるより感情に従い、思うがままに行動する坊ちゃんは、とてつもなくロックで現代的な人間であるといえます。

坊っちゃんは単なるよいこちゃん小説じゃありません。
自分の頭で考えることができない人間をDisり、上っ面を取り繕う汚い「大人」を殴り、自由に生きるロックンローラーの物語なんです。

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